Longtail`s Cafe Fine Graphics

10年程前、大学の暗室をうろうろしていた僕は、偶然、棄てられた印画紙に奇妙な色と形が浮かび上がっているのを見つけ、魅せられた。それは焼き付けに失敗した印画紙に現像液や定着液が残って紙を腐蝕させ、不思議な文様を映し出したものだったが、僕はそれを見つけて以来、いわゆる写真の現像というような作業以上にそちらの方に興味を持ってしまった。あるいはキャンパスに絵の具を塗り込めてゆくというようなことではなく、もっと機械的かつ偶発的に、あらゆる局面においてフリー・マインドな〈取捨選択〉を繰り返してゆくという考え方、つまり、ある意味での「オートマティシズム」に目覚めたのもこの頃だ。予定調和的なプロセスとそれによって導き出される目的(に見えるもの)、あるいは主張といった不純物を極力排し、偶然と必然、記号化と反記号化、無意識と顕在意識の合間を常に往復するような表現のあり方に限りなく傾倒したのだった。ずっと後になるが、大竹伸朗さんの「網膜」というシリーズ(偶然感光した印画紙を使った作品)を見た時は深いシンパシーを感じたものだ。(1999年頃の雑記)

さらに前のコンテンツを観賞する 新しいコンテンツへ